みやげばなし(2002.1.12〜1.14)

その2


6時半に宿を出る。
十日町から、ほくほく線という私鉄に乗って越後湯沢に行く。
車窓から見ていてもわかるが、
ここらへんはスキー場がたくさんある。
そして、温泉も。
主に首都圏から客がたくさんくる町らしい。

着いたのは7時を過ぎた頃だった。
駅はがらんとして人気がなかったのだが、
東京からの新幹線が着いたとたんに
スノーボードを抱えた若者だらけになった。
JRはこの駅からスキー場までの引き込み線をつくって、
スキー客を呼び込もうとしている。
そういう町なのだ。
都会から来た客を当て込んだいろんな店の看板が目を引いた。

駅の食堂が開いたので、そこで朝食にする。
朝定食でごはんに味噌汁。
件の若者たちも大勢店に入ってきたが、
彼らの注文を耳にすると可笑しくなった。
カレーライス、カツ丼、ラーメン。
何を頼もうとそれは自由ではあるけれど、
朝っぱらからそういうものを頼んでしまう感覚というのを
僕は持ち合わせていないので。

東京へ向かう。
東京からさらに西へ行こうと思う。
キップの限界は熱海とその先の伊東である。
伊豆半島はどんなだろうと思って、この際行ってみることにした。
東京には9時半過ぎに到着。
10時発の特急踊り子に乗り込む。
このキップのいい点は、指定席がタダで取り放題というところだ。
車内ではずっと本を読んでいた。
村上春樹の「辺境・近境」という紀行文集だ。
経験的に言って、旅には紀行文か対談集がいい。
要するに、乗り物の中で読むことを考えると、
あまり難しいものよりは気軽に読めるものをということになる。
メキシコ、讃岐平野、中国、モンゴル…。
現実と夢が交錯して、
無関係な土地と土地が僕の頭の中で不思議な結びつきをもった。

伊東に着いたのは12時前。
2時の特急の指定を確保してから街へ。
さすがに伊豆半島、あったかい。まるで4月である。
いたるところに南国の植物が生えている。
向こうに見えるのは伊豆大島だろうか。
穏やかな相模湾。ヨットの白い帆もいくつか見える。
昨日見た日本海と大平洋、同じ海とはいえ全然違う。
さっきまでいた雪国とこういう温暖な地方では
やっぱり考え方も性質も変わってくるのは当然だろう。
このギャップ。
日本は広いわ。

東海館という名の建物を見つける。
明治時代からある有名な宿で、今は博物館的な役割を担っているようだ。
もちろん、入浴もできる。
ここをひと回り見学して、せっかく温泉街に来たのだからと湯に入った。
さらに、せっかくだからと近くの店で刺身定食を喰った。

伊東からの特急、大船で乗り換えて北鎌倉へ。
円覚寺を見る。
北条時宗が元冦の後に建てた寺だ。時宗の廟もある。
ゆっくり回って手を合わせてきた。

とにかくきょうは東京のどこかに泊まることにしよう。
とりあえず、線路伝いに東へ行こう。
飛び乗ったのは八王子行きの普通列車。
関内で降りて中華街へ。
ひどい人込みで中華料理もあったもんじゃない。

長崎の中華街や神戸の南京街も規模こそ違うけれど、
日本の中華街はいわゆるチャイナ・タウンとは別物なんだなと思った。
バイク屋もないし、棺桶屋もないし、香辛料屋もない。
中華料理店街ということなのかな。
ちょっと外れた店でネギそばを喰った。

山下公園から横浜駅までシーバスに乗る。
夜景はきれいだ。
いろんな街に、いろんな夜景がある。
その街その街それぞれ、夜景とはその街の個性が出るものだ。

なぜか蒲田に降り、駅近くのビジネスホテルに今夜の宿をとることにした。

この夜、何か映画を観ようという考えに至る。
大画面のスクリーンで見たい。
新聞でレイトショーのあるところを調べて、
錦糸町まで電車に揺られて出かけていった。
観たのは「バニラ スカイ」
なんてタイムリーな、というか。
当たりだ、おもしろかった。
ペネロペ・クルスに惚れた。
そして、トム・クルーズにも惚れた。

この旅も二日目にして、
かけがえのないものになった。



 

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