みやげばなし(2002.5.12)

松島〜塩竈〜多賀城

その1



くるりの「さよならストレンジャー」を聴きながら、
この日曜日のぼくの足跡をふりかえってみようか。
日本を離れる日のことを考えると、
日本人としてのたしかな「何か」というものが欲しくなって、
どうしても探したくてしかたがなくなって。
でもこんなタビモドキからは実はなにもわからない。

新幹線とか航空機とかに慣れると、
ほんとうに陸は地続きなのかがわからなくなってしまうのかも。
スピードとひきかえに忘れてしまっていたこととは。
というわけで、
鈍行列車で行ってみよう!
てのがここ最近の自分のテーマだったりする。

何度もいうようにぼくは鉄道ファンじゃないのだが、
それに近い側面ももっていることは否めない。
中学2年の時の進路希望は電車の車掌だった。
時刻表が一冊あれば日本全国どこへだって行ける。
旅に出る前日はいつも夜更かししてしまう。

6:03発一関行きの普通列車は二両編成のワンマンカー電車。
ドアは押しボタン式で
キンコンキンコンというチャイムがうるさく響く。
車内はがらんとして、
若い人たちばかり数名、うまいぐあいにばらついて座っている。
ぼくは一両目の運転席の斜後ろに座った。
外は風が強くて少し肌寒かったが、
電車の中は暖房がきいていた。
北上駅での停車中、
運転手がやってきて座席の下に手をかざして、
暑くないですか?とぼくにきいてきた。
ぼくにとっては暑くも寒くもなかったので、
ちょうどいいですと答えた。

電車の中では司馬遼太郎の対談集を読んだ。
このごろになっておもしろくなってきた。
日本について、考えさせられる。
これは必然的な選択かもしれない。

7:06一関着。
次の仙台行きまでは一時間近くある。
駅前の道をまっすぐ歩いて磐井川に出る。
川沿いの道路を歩いて、
芭蕉が二泊したという宿の跡地へ。

すぐ裏手に「世喜の一」という造り酒屋がある。
地ビールなんかも出していて、
きれいなつくりのレストランなんかもあって、
ずいぶんにぎわっているらしい。

ジャズ喫茶ベイシーの前を通っていこうと思った。
けれど場所がわからなかった。
以前来た時は偶然にして店の前に出たという感じだった。
朝と、それから帰りの待ち時間にも探したのだけど、
結局この日は辿り着けずじまいだった。
駅に戻り、ホームの立ち食いそばを喰って電車に乗った。
不思議と食べたくなる駅のそば。
日本が世界に誇るファーストフード・そば。


「世喜の一」の中庭の彫刻

8:00ちょうどの仙台行き。
少しずつ乗客が増えてきたが、
車内は意外と静かなままだった。
石越あたりでおじさんおばさんが6名ほど乗り込んできて
ぼくの近くに座った。
いちばん長老らしき男性が、
戦争当時はここらへんに弾薬庫があって…
なんていう話を車窓の先の山を指差しながら話しているのを、
他の人たちはうなづきながらきいていた。
東北本線が海のそばを通るのは青森県とここらあたりだけ。
川べりには小さな漁船がいくつも係留されているのが見えた。

9:09松島で下車。
たしか小学校の修学旅行では団体列車をこの駅で降りたはず。
その時のことはもう遥か彼方。
荷物をリュックサックに入れていくのが嫌で、
新しいスポーツバッグを買ってもらったのだが、
実際に旅行に出てみると、
友達はみんなリュックで、
そのほうが楽だったことに気がついた。
今では、リュックの旅以外は旅ではないなんて思うくらい、
リュックは旅には欠かせないアイテムになった。

駅から国道45号線を通ってと思ったが、
瑞巌寺までの近道という看板を見て、
山手の細い坂道に入っていった。
今にも雨の落ちてきそうな曇り空。
つつじの季節もやや過ぎて、
白や朱色の花も少ししなびているみたいだった。
民家の庭には岩手ではあまり見かけない南国の植物なんかもあって、
宮城県で自分なりの南国情緒を感じてしまった。

池のある狭い広場を抜けると、
唐突に瑞巌寺の横に出た。
音もなく静かな裏通りだったのが、
いきなり観光ガイドの拡声器の声がうるさく響き渡るようになった。
9時過ぎとはいえ既に観光客は多く、
見事な杉並み木の回りでは
各社のツアーの旗を掲げた集団がいくつもかたまりを作っていた。
そばを通り過ぎると、
西のほうのことばが聞こえてきたりして、
日本三景の観光地としての人気の高さを感じた。

瑞巌寺は9世紀、慈覚大師の創建とされる由緒ある禅寺である。
江戸時代の初めに伊達政宗が大伽藍を建築した。
本堂、御成玄関、庫裡などが国宝になっている。


瑞巌寺・庫裡

拝観料700円を支払って本堂へ。
廻廊を通って、障壁画などをみる。
庫裡には、食事時を知らせる雲版が懸かっていた。
宝物館には、掛け軸の書画が数多く展示されていた。

参道で中年の男性に声をかけられた。
シャッターを押してほしいというので、
押してあげた。
そして、こちらのほうも同じことを頼んだ。
その際彼は、
「700円払って見る価値ありますか?」
と訊いてきた。
「さあ、どうでしょう…」
としか答えられなかったが、
続いて、
「中には何があるんですか」
と訊いてきたので、
見てきたものを話すと、
「価値があるかないかなんて人によって違いますよね」
と言うので、
まったくその通りだと思った。
愚問、とはこのことである。
ぼくとしては、
何を見に来たというわけでなく、
見に来るために来たわけだから、
700円という値段は高いも安いもない。

 遊覧船の船着き場で、
塩竈までの便の時間を聞いた。
案内で立っているおじさんに、
「塩竈までの船はありますか」
と聞いたら、
何を言ってるんだあるに決まってるだろという口調で
「そりゃありますよ」
と言われたので不愉快になった。
その直後に別のおじさんがやってきて、
親切に時間と料金と船の廻るコースを説明してくれた。
船の出る10分前にここに来ればいいというのを聞いて
その場を離れた。

日帰りということを考えて、
時間のかからない電車で行くことにした。
五大堂をみて、公園を通って、
仙石線の松島海岸駅へ行く。
帰りの乗車券を購入して、
10:28の特別快速に乗り込む。



 

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