二〇一四年四月

 今月も終わりか。きょうになって初めて自家用車で通勤できた。施設管理者である阿蘭陀人の方の乗る車と偶然にも同じ車種だった。今朝話したら、右の親指を立てて褒めてくれた。そして、ウインカーの代わりにワイパーを動かしてしまうようなことは、一週間経てばなくなるよと言った。

 店は早くに閉まるので、帰りが遅くなるとどこにも立ち寄ることができないのが寂しい。きょうは行きも帰りもこの地での先輩である案内者のあとを着いていったのだが、明日の帰りくらいからはもうたとえ迷ったとしても一人で帰れるといい。これまで何が苦しかったかといえば、一人で気侭に過ごす時間がもてなかったことだろう。例えば家でも、通勤路でも、休日の買い物でさえ拘束され、一人でいることがない。そんな状態が一か月続くのは、正直堪えた。

(四月三十日 水曜日)

 

 こちらに着いてから3週間近くが経った。風景がもの珍しいことは確かだが、あちこちきょろきょろ眺め回すようなことはあまりない。平日はどこの国にいるかなどに関係なく仕事に明け暮れる。日没が遅いので午後9時でも外は明るいが、帰宅するともう寝るばかりである。それだけに休日は値千金だが、身体を休めることで大半が終わってしまう。本国の上司がメールで、若い人達に負けないように頑張れば負けると言葉をくれた。年相応にやるべきことをやることが、ここにいることの意義だろう。

 昨日は王の日で、偶然我々の住む地元の町に王家の人々が訪れた。驚くことに住居のすぐ目の前がパレードの出発地点となっていた。周辺では前日から道路規制が敷かれたり、ポスターや飾り付けが行われたりして、祭の雰囲気が盛り上がっていた。昨年退官した女王に代わって即位した王様の初めて迎える王の日。朝から晴れ、日の光の暖かく降り注ぐ佳き日だった。自宅前の交差点に王室用のバスが着いて、そこから王様たちが歩き始めた。オランダ語のオライエ、つまりオレンジ公という王家の名に因んで、オレンジ色のものを身に付けた市民が、溢れんばかりに沿道に集まっていた。王様たちはその人々に手を振ったり、オランダや外国の芸術、文化、スポーツを紹介する市民たちと触れあったりした。王室と市民がこれだけ近いということに感銘を受けた。王国にいることを実感する日だった。

 何かがあると書き留めておこうと思う。毎日何かはあるのだが、それを思うように書き留める余裕がないのが惜しい。もちろん素敵なことばかりあるわけではない。だからといって、こなければ良かったとは思わない。むしろ、このわずかな期間に、ここに来たことへの感謝の念が強まっている。ここに来るべくして来ている、おそらくは。そしてその意味は、己がこれからどう生きるかで決まっていく。 

(四月二十七日 日曜日)

 

        14/05/17 8:47 am