に 「庭木」
 トロントと岩手の季節感にはそれほどの違いがない。たとえば、ほとんど半年は冬であるという話はどちらにも共通する。ほんとうにそうか。数えてみるとわかる。岩手でも11月には降雪があり、12月・1月・2月・3月は白い雪に覆われている。4月もまだ寒く、桜が咲くのは5月初旬となる。トロントのほうがもう少し春の訪れが遅い感じがするけれど、まあそれほど変わりない。こちらに来て感じていることだが、人々はどの季節でも楽しみを見つけて、積極的に生活をエンジョイしている。春夏秋冬どの季節も大好きだし、人々が季節を常に意識して生きているように感じられている。日本では季節感がなくなったなどと言われるが、カナダでは季節感なしの暮らしなど考えれられないほどなのだ。
 
 クリスマス前の今、人々のいちばんの楽しみはなんだろう。やはりショッピングだろうか。この季節に購買欲が増すのは洋の東西を問わないみたいだ。僕は買い物は好きではないけれど、12月の街を歩いて感じる情緒は嫌いではない。商店街でなくても、家の庭の華やかな電飾も、この季節の大事な要素になっている。冬のこの電飾は、雪や寒さで塞がれた気持ちをなんとかして明るく保とうとする人々の工夫なのかもしれない。いくら外がマイナス20度以下の寒さであっても、そこにカナダの人々は暗く冷たいイメージをもたせることはしなかった。これから1月2月と寒くなる時期の記憶が、かえって温かさを伴って蘇ってくるのは不思議である。

 長い長い氷点下の季節が過ぎ、雪が消えてからも、木々がいっせいに芽吹くまでにはまだしばらくかかる。5月の第3月曜日、ビクトリア・デイを中心にして、どの家もこのころ一斉に花壇を作ったり、プランターを作ったりして庭をきれいにするのが慣わしとなっている。だから、この時期あちこちのスーパーやホームセンターなどの店頭には花の苗や植木が並び、人々はそれを買い求める。ガーデニングといえばイギリスが有名だが、その伝統はここカナダにも受け継がれている。12月には電気で飾られていた庭が、5月には植物で飾られるのだ。緑の芝生と青い空、それに色とりどりの花。さわやかな風に吹かれながらこの季節の街を散歩するのは何よりの楽しみだ。

 近所の空き地に最近クリスマスツリー用のもみの木を売る季節限定の植木屋さんがオープンした。看板にはオンタリオ州産と書かれており、3メートル以上ある立派なものから、1メートルに満たない小ぶりのものまで揃っている。僕の職場のツリーは折りたたみ式のニセモノだが、こんな天然木のクリスマスツリーにオーナメントを施したら雰囲気もずっとよくなるに違いない。

 カナダで初めての冬。クリスマスの電飾をどうして外に出すのだろうと少し疑問に感じるところがあった。家族で過ごす大切な季節に、どうして部屋の中でなく外を飾るのか。だが、人々は部屋の中にはクリスマスツリーを飾り、外は外で電気の飾りを置いているのである。家族という単位をいちばん大事にするというのは基本中の基本である。セントラルヒーティングの効いた部屋の中で、かけがえのない時間と空間を家族で共有する。庭を飾るというのは、その時間と空間が外にも開かれているということだろう。それぞれの季節の楽しみを、皆で共有しようという発想から学びたいと思う。(2005.12.12)