は 「パン」
 2002年の夏、シアトル〜ビクトリア〜バンクーバーというルートを旅したときに、道中でいちばんうまいと感じたのはバンクーバーで食べたパンだった。それで、カナダはパンがうまいところという固定観念ができた。その翌年偶然にもトロントに赴任したのだが、うまいパンにはなかなかありつけなかった。どのパンも、あのときの感激ほどではなく、固定観念はもろくも崩れ去った。
 しかし、ベーグルだけはちょっと違っていた。職場には弁当を毎日持参しなければならない。それにちょうどいいのがベーグルだった。ベーグルというとニューヨークの名物みたいに言われているが、トロントでもベーグル屋があちこちにある。もともとはユダヤ人の食べ物で、市販のものはより食べやすいように改良されているらしい。レンジで温めるともちもちした食感でけっこうな食いごたえ。腹持ちもいいので一個でじゅうぶんだ。それで、昼にはベーグル1個におかずというパタンを1年以上続けた。
 ところで、いわゆるファースト・フードの店が街のいたるところにある。その代表格といえばハンバーガーだろう。少し歩くと大手の看板が見えてくる様はまるで日本みたいだ(?)。だが、大手ではないハンバーガー屋も同じくらいあちこちにある。どんな田舎の街角にもレストランがあるが、そこでメニューから外せない料理はハンバーガーだろう。たまにハズレもあるけれど、だいたいどれもそこそこはいけるというのは、日本のラーメンに似ているかもしれない。ラーメンに較べると店による味の差は小さいかもしれないが、待ち時間は短い。現在のハンバーガーを食べる頻度は二週に一度くらいだろうか。いろんなハンバーガーがあるけれど、どれも悪くないと思う。
 映画「スーパーサイズ・ミー」では最大手の企業が槍玉にあげられた。しかし、もしあれがラーメンだったらどうだろう。1か月間1日3食同じ店のラーメンばかり食べたら。あるいは蕎麦だったら。おにぎりだったら…。結果は似たようなものになりそうだが。
 最近になってようやくパンへの興味が膨らんできた。スーパーのパン売り場だけでもいろんなパンがある。発祥の国が違い、味が違い、食べ方が違う。コミュニティのパン屋を回ってみるとおもしろい。中国系、韓国系の店には日本のに近い調理パンがある。ヨーロッパ系の店は対面販売のところが多い。うまいのもあるが、どうやって食べるのかわからないのもある。中東系など、まだ試していないものもたくさんある。パンは主食だから、その地域の食文化と密接に結びついているに違いない。店による味の良し悪しもあるだろうが、料理との取り合わせによって味が変わることもあるだろう。
 コメの飯が日本人にとって特別な食べ物であるように、パンもそれを食べる国の人々にとっては特別な食べ物であるはずだ。いずれにせよ、パンの味をうまいとかまずいとか言っているだけでなく、パンの奥深い世界にもっと触れてみたいものである。(2005.5.16)